年齢によって感じ方が変わった珍しい本。【一瞬の夏】

沢木耕太郎作品は、若い頃に結構ハマッた作品です。

読み物としては面白く、若い世代が読めば、心に響くのかもしれません。私もそうでした。しかし、私の場合、社会人になってから読み返すと、不思議なことに、少なからずの反発を感じるようになってしまった二冊です。沢木耕太郎さんが、ノリにノッていた頃の作品ですが、おそらく、精神的には熟していなかったんではないでしょうか?

全編に渡り、主人公はカシアス内藤ではなく、沢木耕太郎であること。傍観者、批判者でしかないのに、かなり上から目線で書かれています。ジムの横を徐行運転する電車。ふと見上げると、車中のサラリーマンと目が合う。たったそれだけの事で、「サラリーマンは、つり革にぶら下がっているだけの自分を恥じるように、目を背けた」と言い切るのは、なんぼなんでも失礼でしょ。偏見が過ぎます。東洋タイトル戦に向かう内藤選手が、移動の飛行機内でまだ、泣き言を言っている。それを前の席で聞いている沢木さんは「この期に及んで」と苦笑されるシーンがあります。しかし、内藤選手は泣き言を言いながらも逃げなかった。沢木さんは、会社の面接が嫌で、途中で逃げ帰ったのに、彼を嗤う資格があるのか? と思ってしまう。沢木作品は当時の若者に親しまれ 私も沢山読んだくちですが 大変偏りの強い内容なので、読まれるには、しっかり客観的立場で読まれるよう、ご注意ください。
当時の人気の理由は、ひょっとすると、この確信犯的な、強い偏見にあったのかもしれません。


一瞬の夏(上) (新潮文庫) 文庫 – 1984/5/1
沢木 耕太郎 (著)
若き子育てヒロシ的評価=★★★★ 
中年子育てヒロシ的評価=★

一瞬の夏(下) (新潮文庫) 文庫 – 1984/5/1
沢木 耕太郎 (著)
若き子育てヒロシ的評価=★★★★ 
中年子育てヒロシ的評価=★

別の作品で、タイトルは忘れてしまいましたが、競馬の調教師のお話がありました。その中のワンシーン。有名な競馬評論家が外車で厩舎に乗り付け、短い取材で帰って行く。沢木さんの「自分は泊まり込んで取材しているんだ」という自慢が入ります。子供だった私の視点は、沢木さん寄りでしたが、大人になると、いくら泊まり込みで取材していても、ほぼ、自分の事しか書いていない記事より、短い取材でも、ポイントを押さえた記事を書いてあれば、そちらの方が仕事としての価値がある。と思いました。(その有名な競馬評論家の記事は読んでいませんが)
若い頃の私は、努力している姿、パフォーマンスの方に目が行きがちだったのかもしれません。