新宿野戦病院
新宿歌舞伎町を舞台に、米陸軍軍医だった日系の女性医師(小池栄子さん)が、中東某国で戦死した男の遺品を、歌舞伎町に居る親友の男性に届けに来た事から物語は始まります。
(第四回で母親役の余貴美子さんの登場で、小池さんが麻薬を焼き捨てた麻薬組織から命を狙われ、逃れるために歌舞伎町に逃げてきた事が本当の事情に変わる)
不夜城、歌舞伎町にある外科病院で、働く事になる元・軍医。
悩みを抱えたトーヨコキッズや外国人労働者等、宮藤官九郎さの事ですから、多分、歌舞伎町の現在を調べ上げて脚本を書かれたのだろうと思われる内容です。
さすが宮藤官九郎さんです。最初は、面白いかどうか? なんとも言えない感じはでしたが、回を追うごとに面白くなりました。
歌舞伎町
新宿にはたまに行く事もありますが、所謂、歌舞伎町は正直嫌いな街なので、もう、三十年以上は足を踏み入れていません。
上京して間もない頃。ある日、私のブログに何度か登場したC次長と、当時の先輩だったDさんと、三人で、「しょんべん横丁」(現・思い出横丁)で飲んでいました。
当時の呼び名「しょんべん横丁」で通しますが、「しょんべん横丁」は、歌舞伎町からわりに近く、体感的には新宿駅を挟んだ西側。山手線等の線路を潜ればすぐの、小さな飲み屋犇めく路地街です。
宴が進み、酔いのまわった次長が、どうしてか、
「歌舞伎町で飲みなおそう」
と言い出しました。
当時…というか、歌舞伎町は、伝統的に物騒な街で、日本反社だけでなく、アジア系のギャング組織の対立も凄まじくなっていて、「中国刀」を使った殺人事件。通称「青龍刀殺人事件」も起きる程物騒な街でした。
「危ないから止めましょうよ」という、私たちの言葉は聞かず、
「こっちは、堅気なんだから手は出してこないよ」等と、根拠のない保障を口にしながら、次長は先に立ってしまいす。
「その堅気を食いものにしてるのが、反社なんじゃないですか?」
と言っても聞く耳持たない次長。
有名な「歌舞伎町」のアーケードを潜ると、当時はまだ、通行人の体に触れながらの呼び込みもOKだったので、やはりガラの悪さは半端ない感じでした。
今の歌舞伎町界隈は知りませんけど、当時は街の少し外れになると、意外に民家もありました。
正直、「この辺りの方は、どういう思いで住んでいるんだろう」なんて思ったものです。
次長を先頭に、しつこい呼び込みを躱しながら進むと、急に民家群になって、その路地の脇に、ぽつん、と屋台が立っていました。
「ちばてつや」さんの漫画に出てきそうな、提灯の下がった木造りの屋台で、まあ、当時としては、そう珍しくもない屋台です。
「ああいう所が旨いんだ」という次長。
(どうしてそう言える?)と思いながら、私とD先輩も続きます。屋台の木のベンチの端っこにお婆さんが座っていて、「ああ、いらっしゃい」という感じで立ち上がり、瓶ビールのコンテナを置いてある、屋台のバックヤードに隠れます。暖簾を潜ってベンチに腰掛けると、調理場には二十歳くらいの、目つきの悪い丸坊主頭の男が立っていました。
どう見ても、堅気とは思えない。
態度も悪いし、髪の毛の生え際の五センチ程上から、生え際数センチ下に掛けて、ためらい感満載の勢いのない傷跡がありました。傷は向かって右側の額に斜めに走っていたので、多分、箔を付けようと、右利きの彼が自分で付けたのだろうと想像できました。
仕入れで一番安かったのか、こんにゃくベースの「おでん」らしい、醤油を薄めた池。
「とりあえず、ビール貰おうかな」
次長が言って出てきた三本の瓶ビールは、栓が抜いてあって、中身の高さが合っていない。おそらく、そこいらの店の裏に出された、飲み残しや、瓶の底に残ったビールを集めて一本でっち上げた物だろうと思われました。
次長がビールを注ぐと泡も立たない。
さすがに気持ち悪いので、私とD先輩は口を付けません。
しかし次長は一杯飲み干し、
「玉子貰おうかな」
というと
「ないよ…」
「ちくわは?」
「…ない」
「じゃあ、何があるの?」
「こんにゃく」
「じゃあそれで…」
出されたこんにゃくも、「一体何日煮たんだ」みたいな怪しさ、
「からし頂戴」
「ないよ」
食い物とも思えないような「こんにゃく」を次長は食べていましたが、D先輩と二人で、
「ここ、変ですから、行きましょうよ」
次長に耳打ちしました。やっと、次長も腰を上げてくれて、
「ここも、俺が出すから」
といって、私たちは暖簾の外で待っていました。会計を済ませて出てきた次長。
「十万も取られたよ」
屋台は、反社の下っ端のシノギだったんでしょうね。当時としてもあり得ない額のボッタくり屋でした。
「歌舞伎町」とは言うが歌舞伎とは関係ない
戦後に付けた町名らしいです。戦後復興の一環で「この町に歌舞伎座を作ろう(呼び込もう)」という事で歌舞伎町の名前を付けましたが、歌舞伎はとうとうやってこず、歌舞伎町という名前だけが残ったのだそうです。
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