火垂るの墓
アニメーションのイメージが強く成ってしまいましたが…
アニメのイメージの強い「火垂るの墓」ですが、原作は野坂昭如さんの小説です。
私は、たまたま、アニメが出来る前に小説の方を先に読みました。
ストーリーはほぼ、同じとみて良いでしょう。アニメも秀作ですが、活字でも是非読んで頂きたい作品です。
【あらすじ】
1945年（昭和20年）9月21日、主人公・清太は神戸・三ノ宮駅構内で、14歳という若さで衰弱死する。
清太の所持品は錆びたドロップ缶ひとつ。その中に4歳という幼さで衰弱死した妹・節子の遺骨が入っていた。
駅員がドロップ缶を見つけ、ゴミとして草むらへ放り投げる。
仕方のない事だが、冒頭から、人の死が日常化した、戦争末期から戦後に掛けての無情さが現れていて、なんだか悲しくなる。
缶は地面に落ち、こぼれ落ちる遺骨。蛍が驚いたのか、沸き立つように飛び交う。
大東亜戦争末期。海軍将校を父に持つ清太は、神戸の町に母と、妹・節子と住んでいた。神戸大空襲で母も家も失い、父方の従弟にあたる、西宮市の親戚の家に身を寄せることになる。
当初こそ、順調に見えた居候生活だったが、戦争が激化するにつれ、清太・節子を邪魔に感じる叔母との間に、確執が生れる。清太は節子を連れて家を出、近くの貯水池のほとりにある防空壕の中で暮らし始めるが、戦争中の「不協力」とも言えるこの行動は、すなわち「死」に向かう無謀な行動であった。家を出たために(町の組合に所属してない為に)配給を受けることが出来ない。情報も得られない。親切な人からは、頭を下げてでも家に戻った方が良い。と忠告を受けるが、頑なに洞穴生活を続ける。思うように食料が得られず、妹・節子は徐々に栄養失調で弱って行く。清太は畑から野菜を盗み、空襲を利用した空き巣、火事場泥棒を働く様になる。現行犯で捕まり、打擲され、派出所に突き出されながらも、なんとか飢えをしのぐ毎日。
ある日、栄養失調が酷くなった節子を、病院に連れていく。医者は事務的に「滋養を付けなさい」と言うが、成すすべがない。医師に冷たい印象を持つものの、医師としても、どうしてやる事もできない現実がある。
銀行から貯金を下ろし、節子の為に食料をなんとかしようとする清太だが、その途中、日本は降伏し、戦争は終わったと知る。父の所属する連合艦隊も壊滅したと聞き、ショックを受ける清太。
戦後、本格的な物不足が始まり、やっとの思いで、食料を手に入れ、節子に食べさせるが、間に合わず、終戦から7日後の8月22日に短い生涯を閉じる。
清太は、一俵の炭を手に入れると、妹・節子を荼毘に付し、節子が死の間際まで握っていた、ドロップの缶に、節子の骨を詰める。そして、清太は防空壕を後にする。清太も栄養失調に陥り、三ノ宮駅で寝起きする多数の戦災孤児の1人として野垂れ死にしてゆく。
多くの人が、この作品を観たり、読めば、涙すると思います。
作品に水を差すようですが、八月、九月に蛍は飛びません。
身を寄せた親戚のおばさんも、確かに酷いのですが、
「清太さんもしっかりせい。海軍さんのお子やろ」という気持ちもあります。
コロナ自粛警察同様、戦争中の非常時に、おばさん家のオルガンを弾いていれば、おばさんも気が気ではなかったろうとは思います。もっと、積極的に隣組などにも参加して、おばさんに協力的姿勢を見せた方が、節子ちゃんも餓死せずに済んだろうに…という、ちょっと悔しさも感じました。
【こぼればなし】
原作者の野坂昭如さんの、実体験をモデルにして描かれた作品です。
野坂さんは、神奈川県鎌倉市の生れですが、生後二か月の時、実母が亡くなられた事も原因なのか。
生後半年で神戸に養子に出されています。
(戦前には、こうした謎とも思える「嫡男を養子に出す」という事はよくありました)
野坂さんも、十一歳まで、自分が養子であることは知らなかったそうです。
下の妹二人も養子として貰われてきて、上の妹さんは、まだ戦況が悪化してない時分に病没。戦況が悪くなると、下の妹さんの事は、疎ましく思っていたらしく、疎開先の福井で、誰に看取られることなく、餓死されたそうです。野坂さんは、福井に赴き、実際に、妹さんを荼毘に付し、
「もっと優しくしてあげれば良かった」
という、贖罪の気持ちからこの作品を書いたそうです。
戦後も、養母とその親戚と、大阪市内で暮らしていたそうですが、上京後、窃盗で捕まり少年院(それとも鑑別所?)に入った事もあるそうです。実父が身元引受人になってくれ、そこで野坂という、旧姓に戻りました。
腹違いの弟さんとの不仲は、生前、野坂さん自身がよく口にしていました。いずれにせよ、野坂昭如さん自身、壮絶な戦中戦後を過ごされたのだと思います。
この記事が面白いと思ったら、ブログ村プロフィールをポチしてください
