０～1歳児の知能は、決して侮れない。
【思い出話】落差２０センチ
その日の午前中。洗濯機を掛けながら、少し仕事に集中していていました。
倅は、リビングで遊んでいるはずでした。
廊下との境にフェンスを設けたので、私の部屋や台所に乱入はできなくなっていました。
少しは気楽に仕事に打ち込めるはずだったのですが、ふと、静か過ぎる事に気づいてリビングに目をやると、さっきまで遊んでいた倅の姿が無い。
死角になっている場所に居るのかな? と覗いてみても居ない。
和室に向かって呼びかけてみても気配がなく、念のため覗いてみましたが、やはり姿がありませんでした。
「どこへ消えたんだろう？」
不安になりました。
室内に隠れ居ている様子もありません。
見回すと、南側のベランダの網戸が、三分の二ほど開けられています。
風を孕んで、カーテンが大きく舞っている。
中途半端に開けられた網戸。
吹き込む風に揺れるカーテン。
このシチュエーションは何だが、
「自殺」
「失踪」
「神隠し」
「転落事故」
を連想させました。
まあ、年齢的に言って、自殺はないでしょう。失踪や神隠しも、我が家の階では考えにくい。
考えられるとすれば、転落でしたが、赤ちゃんではフェンスを越える事は出来ないでしょう。しかし、ベランダに転落して、瀕死の怪我をする可能性はあります。
慌てて覗いてみると、倅が倒れている様子もない。
転落したなら、それなりに大きな音もするだろうし、泣くだろうと思いました。
ベランダに下りながら、右手を見ると、倅は手摺フェンスにもたれて、私が外干ししていた、熱帯魚用のポンプのパイプパーツをしゃぶりながら、ベランダに移動させた水槽を眺めていました。
別に、叱りはしなかったのですが、みつかった途端。
「まずい」
と思ったらしく、しゃぶっていたパイプを投げ捨てて、体裁を取り繕いました。
何だか、その様が、喫煙を見咎められた中学生のように見えました。
「よく降りられたね」
抱き上げながら言うと、倅は叱られなかった事に安堵したのか、笑いながら抱きついてきました。
洗濯も終わり、網戸を開けたまま干していると、倅が窓枠に掴まりながら、またベランダに降りて来ようとしています。
「さて、どうやって降りたのか、しかと見せて貰おう」
転げ落ちそうになったら、すかさず助けるつもりで見ていました。
倅は、竹藪で筍でも、探るような足つきで、足場を探しています。
網戸とベランダとの間には、一段小さな出っ張りがあって、倅は一瞬そこに足を掛けると、一気に飛び降りるようにして、ベランダに降りました。
転がるかと思いましたが、ちゃんと両手を着いて軟着陸成功。
「ほう、お見事…」
つい、感心してしまったのですが、またひとつ、目の離せない悩みが増えました。
洗濯物を干し終わってから、ホームセンターでゴム板を買ってきて、倅が開けられない様に、網戸ストッパーを自作して取り付けました。しかし、これも、網戸の縁辺りを突くと、外側に捲れてゆく事を発見してそこから脱出するようになりました。
(※網戸破りの現場写真があったのですが、見つかりませんでした。)
本当、子供が歩き始めるのは、親としては嬉しい成長ですが、何にでも興味津々で、何しでかすか分からないので心配もふえます。それに、大人が思う以上に、ごまかしを考える知能はあるので、馬鹿にできません。
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