江戸時代の犯罪捜査事情
【渋沢栄一の出身地、上州という土地柄】
前回の「青天を衝け」でも言っておりましたが、上州・群馬県という土地は、火山灰の土地という事もあって、稲の栽培には適さない土地でした。
代わりに、桑を植え、「養蚕業」の盛んな土地になります。絹製品は、絹相場という投機的な市場となり、一夜で大金持ちになる者も居れば、借金まみれでスッテンテンテに成る者も現れるようになります。先物取引の発祥は日本とされていますが、大坂の米相場の様に、絹相場が上州には立っていたそうです。
大金が動くので、反社会的組織も集まりやすい環境になり、昭和頃迄、上州といえばヤ〇ザという偏見が残っていました。
【上州に渡世人が集まったもう一つの理由】
現代地図にも、その名残が観られます。群馬、栃木、茨城、埼玉の県境が狭い点で接しています。現在では「歩いて回れる三県」として、観光の目玉になっているらしいですが、昔の反社会人達にとっても、この「国境」の近さは、逃亡に最適でした。勿論、この一点に渡世人が集中していた訳ではありませんが、上州という土地は、前橋等の中心地からも、下野や武蔵に近く、犯罪者が逃亡しやすい土地でもありました。
【江戸時代の犯罪捜査】
捜査の日数は基本、三十日でした。それを過ぎれば、犯人は藩外に逃亡したとみなされています。捜査の手は事件の起きた藩内にしか及びませんでしたから、国外に逃亡すれば全てコールドケースとなりました。
【幕府とは言えども、他藩を勝手に捜査できない】
国外逃亡すればコールドケースと書きましたが、時効ではありません。他藩に潜伏している事が確かであれば、逮捕に向かうケースもありました。が、それには、潜伏先の藩に立ち入り捜査の了解を得なければなりません。犯罪の情報を藩同士で交換するなど、一種の国際警察機構に似た側面はありましたが、立ち入り捜査は殆どの藩が認めていなかったそうです。他国役人を入れる事は、国内事情を探られる事でもあったからです。実際、江戸表で殺人を犯した男が、遠州・掛川藩に居るらしい情報を得て、「逮捕に向かいたい」旨を伝えましたが、掛川藩側が拒否した例があります。掛川藩は徳川親藩でしたが、それでも拒否されています。
【坂本龍馬、中岡慎太郎の捕縛も天領内】
幕末の風雲児、坂本龍馬、中岡慎太郎も薩長側のフリーエージェントとして、幕府に追われていましたが、捕縛劇は全て、天領(幕府直轄領)でしか行われていません。
【木枯し紋次郎】
紋次郎は、架空の人物ですが、旅から旅の渡世人の物語です。上州出身で、幼い頃に、親が絹相場に失敗し一家離散という設定になっています。物語では、旅から旅を続けていますが、当時の渡世人は上野南東部、下野南部、常陸西部、武蔵北部という、狭い範囲をグルグルまわっているだけでした。
【八州回り】
正式には「関東取締出役」と言います。
関東一円に無宿人・渡世人、反社組織に雇われる用心棒(主に浪人)が増加し、治安が悪化。しかも、治外法権を利用して逃亡する為に、幕府は現代のFBIに近いというか、そのままの組織を「文化2年」(1805年)に設立。国境を越えて捜査していました。ただし、その捜査権は関八州(上野・下野・常陸・上総・下総・安房・武蔵・相模)に限られてはいました。
【映画・用心棒も上州が舞台】
監督・黒澤明、三船敏郎主演の映画「用心棒」も、上州が舞台で、巡回ですが「八州回り」がやって来るシーンもありました。絹相場で宿場町に反社組織が二つ現れ、無法化した宿場町を「桑畑三十郎」を自称する浪人が、策略と腕前を以て一掃する映画です。海外での評価が高く、最初にイタリアで「荒野の用心棒」としてリメイク。世界的にヒットし、主演したクリント・イーストウッドの出世作となりました(イーストウッド自身は米国俳優)。他、米国でもブルース・ウィリス主演で「ラストマン・スタンディング」というタイトルでリメイクされていますし、ケビン・コスナー主演の「ウォーター・ワールド」、メル・ギブソン主演の「マッドマックス2」(豪州)も、用心棒をリスペクトした作品です。と、メル・ギブソン自身が言っていました。
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